
次代への羅針盤
「出会い」によって研究は導かれる
遷移金属錯体触媒を使ったリビングラジカル重合の開発者の一人である上垣外正己氏。
人間関係を大切にし、偶然を見逃さないようにすることが、研究者には大事だと説く。
Masami Kamigaito
上垣外正己
名古屋大学大学院 工学研究科 教授
恩師との出会いが転機に
私たちの身の回りには、高分子でできたものがたくさんあります。プラスチックや合成ゴム、あるいは化学繊維などはいずれも工業生産された合成高分子でつくられています。
高分子は、小さな分子(モノマー)がつながった大きな分子で、その分子量は1万を超えます。それぞれの高分子は物性や特質を持っていますが、そうした物性はモノマーがつながった長さや立体構造などで異なってきます。逆にいうと、そうした構造や長さを制御することで、従来のものとは違う物性や特質を持つ高分子を合成できるようになるのです。
そうした構造が制御された高分子のことを、私たちは「きれいな高分子」と呼んでいます。きれいな高分子をつくるためには、小さな分子をつないでいくときの重合反応が重要。私たちの研究室は主に、その重合反応を開発する研究をしています。
私がこうした研究をするようになったのは、2人の恩師、東村敏延先生(故人)と澤本光男先生との出会いがきっかけでした。澤本先生はノーベル賞の候補にもなられている方で、東村先生はその澤本先生の恩師にあたる方です。
学生の頃、私は修士課程を修了したら企業に就職しようと考えていました。ところが、京都大学で東村先生の研究室に入ってリビングカチオン重合の研究をするようになったら研究が俄然面白くなり、博士課程に進学する道を選ぶようになったのです。