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伝説のテクノロジー

伝説のテクノロジー

手描きの鯉のぼりづくりに挑戦し続けてきた50年

鯉のぼり職人 橋本 隆さん

大空を飛翔する龍を見たか

左は金の文様を描く金引き用の筆。右は先代から使っている刷毛

 現在、橋本弥喜智商店には橋本さんも含めて9人の職人がいる。ただし、金色の文様を描く「金引き」と呼ばれる最終工程の作業をできるのは、橋本さんと弟の勝さんだけだ。

 「絵を描けるようになるまでは、最低でも10年はかかります。勢いのあるかすれやぼかしを描くのが難しい。私だってまだ一人前ではないですよ。だからひとつ描き終わったらいつも、次はもっといいものができるはずだと思います」

 でも、思いを込めて描いた鯉のぼりは、必ず人の心を打つ。だから橋本弥喜智商店には全国の客から礼状が届く。「それがうれしい」と橋本さんは相好を崩す。

色付け用の顔料。

 「顔料を使っているので、雨にも日光にも色褪せません。北海道にはうちの鯉のぼりを27年間、揚げ続けているお客さんもいます。あるお客さんのところでは、うちの鯉のぼりを揚げている間だけ、近所の幼稚園の散歩コースが変わるそうです。子どもたちは楽しそうに鯉のぼりを見上げて、鯉のぼりの歌を歌いながら帰っていくと、手紙に書いてありました。自分の子どもが褒められたような気分で、最高に幸せですね」

 中国には、鯉に関わる伝説がある。黄河上流にある竜門に泳ぎ登ることのできた鯉だけが、昇天して龍に化身するという登竜門伝説だ。鯉のぼりはこの伝説に由来しているという説もある。

 「いつか、東京スカイツリーで巨大な鯉のぼりを揚げてみたい。大空を悠々と泳ぐ鯉のぼりを人々が見上げていると、空が一転俄かに?き曇り、雷鳴がとどろく。そして驚いた人々が一瞬そらせた目を再び戻すと、そこにもう鯉のぼりはいない。そして私は『俺の鯉は龍になって飛んでいった』とつぶやく。それが私の夢なんです」

 23歳から始めてすでに50年以上。鯉に恋して鯉のぼりづくりに一生を捧げてきたこの人なら、この途方もない夢を本当にかなえてしまうのではないだろうか。

はしもと・たかし 1940年12月29日生まれ。株式会社橋本弥喜智商店代表取締役。埼玉県認定伝統工芸士。宇都宮の会社で5年間修業した後、家業の鯉のぼりづくりに入る。その2年後、父親が亡くなり、25歳で橋本弥喜智商店の3代目社長に就任。鯉のぼりの注文は毎年11月ごろから入り始める。翌年の4月末まではほとんど無休の忙しさになる。 「手描きの鯉のぼりには、印刷やコンピュータでは決して出せない味があります」という。

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